Q.1920年までシングルサインボールが少ないのは何故ですか。
A.サインを取り巻く当時の環境に理由があります。
ビンテージサインボールの多くが1930年代から
アメリカのサインボールにはある1つの特徴があります。
それは1930年代以降のものが多いということ。
1920年から時代を遡るごとに数が減っていきます。
特に「Deadball Era」といわれる1900〜1919年のシングルサインボールはなかなか見かけません。
ナポレオン・ラジョイのサイン
見かけないとはいえ、もちろん「ゼロ」ではありません。
しかし、例えば、Dead ball 時代にプレーしたNapoleon Lajoie(プレー歴1896〜1916)。
三冠王を獲得し、殿堂入りもしている名選手ですが、
某オークションハウスの出品歴を調べたところ、一番古いサインボールは1936年でした。
一方、ボール以外では1906年などの直筆サインが残っているので、「年を経る毎にサインが失われた」というわけではありません。
つまり、サインボール「だけ」が少ない理由が何かあるのです。
原因は2つ?
MLBの直筆サイン研究・収集者である
Ron Keurajian氏は1920年までのサインボールが少ない理由を2つ指摘しています。
“The first is that fans did not start collecting popular celebrities like Ruth, Charles Lindberg, and Charlie Chaplin until the 1920s.
The second is that baseballs were too valuable to be signed by just one player.”
–David Seideman「Buyer Beware: How To Spot Baseball Autograph Forgeries」
1つは1920年代になるまで有名人のサイン収集がメジャーではなかったこと。
もう1つは1人の選手のサイン用に用意するのはボールが高価だったこと。
実際のところはどうだったのでしょうか?
スポーツ選手や有名人のサイン収集が本格化するのは20世紀になってから。
1900年前後のサイン収集状況については以前このブログでも紹介したBrian Franco Harrinがその著作『Can I have your Autograph?』で書いています。
それによると、
1887年にはハリウッドにサインの専門店がオープンし、他にも数店オープンしたそうです。
また、1890年には専門誌も創刊され、さらに20世紀に入ると映画やテレビの俳優のサインも収集されるようになったと記されています。
これはKeurajian氏の説明と概ね一致します。
ボール高価説の検証
次にサイン用にするにはボールが高価だったという説です。
これは1900年と現在の平均所得とボールの値段を比較して検証してみましょう。
【現在】
アメリカの平均年収:$61,372(2017年)
※United States Census burau
MLB公式球:約$14(2019年)
【1900年頃】
アメリカの平均年収:約$440
※PAN AMERICAN
※U.S.Embassy&Consulates in Germany
MLB公式球:$1.25
※1900年頃のSpalding広告。
平均年収を同一の価値として計算すると
1900年代の$1.25は現在の$174になります。
こうしてみるとKeurajian氏の言う通りサインを貰うだけのアイテムに170ドルを払うのは高いですね。
シングルサインボールが少ない原因が
選手やサインそのものではなく、
サインを取り巻く環境にあるというのは、非常に興味深い事例です。
視野を広くすることで見えてくるものがあるということを教えてくれる話でした。
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