Q.Removalとはどんな偽造ですか。
A.サインを「消す」ことによる偽造です。
「足す」のではなく「引く」フェイク
「サインの偽造」というとどのようなイメージを持つでしょうか。
「第三者がまねて書く」
「サインに第三者が追記する」
など通常、書き「足す」ことによって作られます。
しかし、偽造、改竄の中には「引く」ことによって作られるものもあります。
それが「Removal」という改竄手法です。
「Removal」とは
この手法は『50 Most Forged Sports Autographs』で紹介されています。
手口は、
本来マルチサインやチームサインだったサインボールを、いくつかのサインを消す(又は塗り潰す)ことでシングルサインボール等にするものです。
このRemoval、私も資料で読むばかりで実例にはお目にかかったことがなく、レアな手口と認識しています。
Removalの目的
ここで疑問に思うのは
「何故わざわざ本物のサインを消すの?」
この問いに対し、実例に出会ったことの無い私は確たる回答を持っておりません。
しかし、Removalが起き得ると推測しているケースはあります。
それは「マルチ」より「シングル」のほうがサインが希少なもの ・・・Dead ball Eraのサインボールです。
Dea ball Eraのサインボールの値段
メジャーリーグの黎明期たるDead ball Era(〜1920年)では「マルチサインボール」より「シングルサインボール」のほうが数が少ないことをこのブログでも紹介しています。
では、値段はどうなのか。
シングルサインボールのほうがマルチサインボールより高いのかどうかを、オークション落札額の比較で見てみましょう。
ケース1: エディプランクのサインボール
Eddie Plankは1875年生まれの投手。
1901年から1914年までフィラデルフィア アスレチックスでプレーし、1917年に引退しました。
では、サインボールです。
まずマルチサインボールから。
1910年 A’s チームサインボール
落札額:$38,000
※赤線がプランクのサイン
続いてシングルサインボール
1915年 シングルサインボール
落札額:$228,000
C1915年 シングルサインボール
落札額:$ 83,650
ケース2:クリスティ・マシューソンのサインボール
1880年生まれの投手。
1900年から1916年までニューヨーク ジャイアンツでプレーし、同年に引退しています。
では、サインボールです。
まずマルチサインボールから。
1924年 ジャイアンツ チームサインボール
落札額:$24,000
※赤線がマシューソンのサイン
続いてシングルサインボール
1923年 シングルサインボール
落札額:$83,650
(注)
Heritage Auctionは直近のオークションで
「オークションハウスに出品されたマシューソンのシングルサインボールは過去数十年で5個未満」
と話しています。
Dead ball Eraの2選手のサインボールは、いずれもシングルサインボールのほうがマルチサインボールより高額で落札されてました。
その差も最小で$45,000と高額です。
また、フェイク技術の高さもオペレーションブルペンで明らかになっています。
結論としては、大きな利益も見込めるDead Ball Eraのサインボールには、Removalが入り込む余地はあるように思えます。
まさかの坂で転ばないために
Removalは「儲けるためなら何でもあり」というフェイクの底知れぬ闇を象徴しているようにも思えます。
「あり得ない」は無いという心得が騙されない第一歩なのかもしれません。