2012年 ビル・マストロがグレツキーT206ワグナーの「トリミング」を自白
事 実
1985年のT206ワグナーの取引以降サクセスストーリーを歩んでいたかに見えたビル・マストロは、30年後「詐欺師」として追及されていました。
主催していた「マストロオークション」で「shill bidding(関係者が入札者を装い入札額を釣り上げること)」を恒常的におこなっていたほか、スポーツメモラビリアのフェイクを販売していたとして訴追を受けていたのです。
5年の懲役を求刑されたその審議過程においてマストロは検察との司法取引により、1980年代半ばにグレツキーT206ワグナーをトリミングしたと告白しました。
これはマストロが従業員に対しグレツキーT206ワグナーとトリミングしたと自慢していたことを捜査官が調べ上げた結果でした。
この自白に絡み、グレツキーT206ワグナーに関わった人々のよくない噂もでてきました:
曰く「グレツキーT206ワグナーをPSAで鑑定したビル・ヒューズはトリミングに気がついていたがそれは公にはされず、PSAは『トレーディングカードの聖杯』として扱った」
曰く『マストロにグレツキーT206ワグナーを売却したアラン・レイはトリミングに気がつき、PSA鑑定後に自分の手元にあった当時のグレツキーT206ワグナーの写真をサザビーズとブルース・マクネルに送ったが無視された』
など
補 足
最終的にマストロの自白に絡む司法取引は裁判所には採用されませんでした。
しかし今日ではベケット社もグレツキーT206ワグナーを「infamous Gretzky Wagner is confirmed as being trimmed」と記述する等、トリミングは事実として受け止められています。
「高いカードを、もっともっと高いカードを!」と求めて行った果てにある1つの姿がグレツキーT206ワグナーであるように思えてしまいます。
また、トリミング前の写真を関係者に送ったというアラン・レイは、シートから後のグレツキーT206ワグナーを切り取ってマストロに売却したという噂もあります。
この「シート」とは、複数のカードが一枚のシートに印刷された「アンカットシート」のようなものだったのかもしれません。
噂なので真偽の程はわかりませんが、事実だとすると
レイがシートからT206ワグナーを切り取る
↓
切り取ったカードの端をエイジング処理する
↓
譲り受けたマストロがそれをトリミングし、いかにも状態の良いまま保存されたように改ざんする・・・
闇を覗きこんでも底は見えないようです。
それでも高値は続いていく
現在、グレツキーT206ワグナーは最も高いカードではありません。
別のT206ホーナス・ワグナー、通称「ジャンボ・ワグナー」が2016年にGoldin オークションで312万ドルで落札されました。
これを報じたベケット社の記事は言います;
“… it’s possible that the Gretzky Wagner could one day reclaim the record if it’s put back on the market simply because of its infamous history.”
まさに「悪名は無名に勝る」
ここまでお話ししてきたグレツキーT206ワグナーを巡る経緯すら、マーケットはカードを有名にする『付加価値』として飲み込んでしまうのかもしれません。
「価値があるものには、常にさらに高値をつける人間がいるものだ」
(グレツキーT206ワグナーを入手した時にマクナルが発したとされる言葉)
【「グレツキーT206ワグナーの歴史」了】