特にNBAトレカで散見されるリプリント(fake)カード。この『リプリント』に関しては、語義が変化している節もあるため、まずは一度「リプリント(fake)カードは何か」を整理し、現状を俯瞰してみたいと思います。
「リプリント」の二義性
1年以上前、フリマアプリに出品されていたStar Co.カードに関し、私(注:出品者ではありません)がある方から質問を頂いた際、「リプリント」という語の定義が異なっていることを認識しました。
まず私が理解していたリプリントの語義について説明します。
以下の画像は廣重嘉之著『スポーツカードの集め方』(平成10年刊)の1ページです。
リプリントカードは「古いカードの復刻版」であると記されています。
また議論の先取りになりますが、fakeカード、いわゆる偽物カードについては
「ニセモノカード」「フェイクカード」「カウンターフェイト」という名称が使われています。
また、Bob Lemke著『Sportscard Counterfeit Detector 3rd edition』(1994年刊)では、「Reprint」という項を設け、「リプリント」と「カウンターフェイト」は違うものであると説明しています。
私の認識はこれらの著作と一致しており、
リプリント=適法な権限に基づき既発行カードを再度印刷したカード
fake=適法な権限を得ず、購入者にオリジナルであると誤認させる意図で複製されたカード
でした。
他方、昨今の「リプリント」の用法には「fakeカード」を指して使われていることが多いように感じます。
これは単純コピーのfakeカードの多くが昨今「reprint」と自称していることが影響しているのかもしれません。
ここで述べたいのは、どちらが正しいということではなく、現在の「reprint」は二義性を有しているという事と、それを踏まえたうえで本稿ではこのような複製カードをどのように称するか定義づけをすることであります。
以下では、現在の用法も踏まえつつ、違法性を示すために
リプリントfake(カード)=適法な権限を得ず単純にコピーされたカード
と定義していきます。
リプリントfakeの問題点
リプリントfakeが違法であることは明白ですが、どのような問題があるのか今一度確認してみましょう。
<権利侵害である>
リプリントfakeのデザインは全てオリジナルカードを作成したメーカーが必要なコストをかけて作り出した「作品」です。「漫画村」の例を出すまでもなく、作品にフリーライドして利益を得ることは、原権利者の正当な権利を侵し、その労苦を踏みにじることになります。
<誤認を起こさせることを目的とする販売方法である>
特に日本でのリプリントfakeの販売では、タイトルや商品説明にreprintと記載されていますが、それ以外にリプリントfakeであることを示す指標はありません。重厚なケースにいれてあたかも貴重品であるかに装ったそれは、極論すれば「9割の虚構のなかに1割の真実を混ぜて」、その1割に気が付かない購入者を待つという販売形式です。
これはリプリントfakeの出品者の応答を見ても明らかです
9割の虚構で購入者に誤認を起こさせる(また誤認しても構わない)という販売形式はまっとうな商売ではないことは言うまでもないでしょう。
<初心者が陥りやすい>
後述するようにリプリントfakeは画面越しでは見抜きにくいfakeの1つです。しかもオリジナルの発行が10~20年前のものが多く、実物を目にする機会もないような初心者コレクターでは見抜くのは難しいと言わざるを得ません。
コレクター同士の交わり方も昔と今では変わってきていることを考えると、初心者コレクターがリプリントfakeに騙される可能性は高くなっているといえるでしょう。
リプリントfakeはどこから来るのか
このようなリプリントfakeはどこから日本市場に流入するのでしょうか。
無論流通ルートを示す資料は無いですが、マーケットに現れた順番や商品点数から、私は以下のような3層構造の流通ができているのではないかと推測しています。
三角の最下層、緑部分が「①リプリントfakeの作り手に近いと思われる小規模マーケット」です。
ネットモール「Etsy」などが該当します。
ここでは所在地を米国とするいくつかの業者が多数のリプリントfakeを出品しており、以下の画像のように纏め売りされているのも珍しくありません。
またリプリントfakeの種類も多いことから、作り手に近いことがうかがえます。
三角の中段、青部分が「②リプリントfakeを拡散させるマーケット」です。
これは①のマーケットで購入した人間が、さらに転売(または詐欺)を行うために出品していると思われるマーケットで、ebayなどが該当します。
ここを拡散させるマーケットと位置付けたのは、Etsyのような米国のマイナーモールよりも海外向けに販売される体制が整っていることと、前述のヤフオクでのやり取りにてリプリントfake出品者が「ebayにて購入した」と述べていたためです。
ここでよく売れているリプリントfakeが1~2か月後に日本に流入してきているようです。
三角の上段、赤部分が「③詐欺を働くマーケット」、つまり日本でいえばネットオークションやフリマアプリです。
この流通ルートを三角形で示したのは、①から③に進むにつれ、商品を選別が行われているように見えるからです。
例えば、①では以下のような超有名カードのリプリントfakeも販売されています。
しかし、これらは②ではほぼ見かけません。
また②では以下のようなリプリントfakeも複数見かけますが、これも③にはまだ流入していないようです。
このようにしてみると、現時点で日本に流入してきているのは、主として
「(最)高級ブランドのオート(サイン)カードで、極端な少数シリアル(1/1等)ではないもの」
または
「廉価版ブランドでシリアルがなくとも高額化しているRC」
に絞られるようです。
リプリントfakeの判定方法
リプリントfakeは単純なコピーであるため、オリジナルとの違いは「画質」や「色」であることが多いです。
しかし、現物を見るのとは異なり画面越しに確認するとなると、そもそもCMYK⇔RGB変換で色が変わりやすいこと、画素数により画質が変わること等から、見分けるハードルは上がります。
そのため、「リプリントfakeが出ているカードの情報を得るように心がけ、見分けがつかないカードは手を出さない」、「ショップで現物を見て購入する」のが最善の策です。
少なくとも日本に現在流入しているカードは、オリジナルであれば「容易に手が出ない金額のカード」か「ショップ等でも入手が可能」のいずれかのため、「今見ているカードではないと困る」という(初心者)コレクターはほぼいないのではないでしょうか。
とはいえ、これまでリプリントfakeの存在を認識していなかったコレクターにしてみれば、どんなものがfakeなのか分かりにくいと思うので、以下では例としていくつかのリプリントfakeを示してみます。
例① 09-10 Topps James Harden RC
本稿執筆時点でebay出品が増えてきたリプリントfakeです。
このリプリントfakeはオリジナルに比べ画質がかなり悪いため、緑円で示したような背景が明確にみえるか否かが一つの指標になりそうです。
例②03-04 Topps LeBron James RC
最初に申し上げなければならないのは、このカードは「リプリントfakeの特徴は分かる」が、「本物の共通した特徴を私は見いだせていない」ということです。
比較ポイントは緑枠で示したネームプレート部分です。
私が確認したリプリントfakeは全てネームプレート内の名前が「下付き」になっていました。左のカードと比較してもらうと位置関係がわかると思います。
そのため、下付きのカードで相場より安く売られているものはリプリントfakeの可能性が高いとみてよいでしょう。
では本物は全て「上付き」なのか=偽物は全て「下付き」なのか?といわれると首肯できない部分があります。
PSAやベケットなどが例としてネットに掲載している画像はほぼ「上付き」です。またグレーディングされているカードも「上付き」が多いです。
しかし、一方でグレーディングされているカードの中には「下付き」もあり、また04-05にToppsがOriginalに封入したバイバックにも「下付き」のものがあります(これはバイバック自体の真贋から行わないといけないのですが)。
そのため、「上付き」が本物というよりも、「下付き」はリプリントfakeが多いと認識しておくほうが間違いありません。
先述したとおり、他に入手機会があるカードですので、無理をすることはないと思います。