2020年に蔓延した新型コロナウィルスは世界を変える程の大きなインパクトでした。
それは趣味の世界でも同様で、コロナ前とコロナ後では大なり小なり「趣味の日常」が変化しそうな気配があります。
本投稿では米トレカ市場における「変化の萌芽」を概観してみたいと思います。
リアルショップの苦闘とネットの活況
1.来客の減少
コロナウィルスが蔓延した3月、アメリカでも外出制限等が課されることとなりました。
これによりトレカショップの来店客は減少し、オレゴン州のある店舗では来客数が約20%に激減したそうです。
減少した来客の中で特に顕著だったのが、親子の来客。
これは親が子どもの健康状態を心配し、狭い空間であるトレカショップへ立ち入ることを敬遠したためでした。
2.店舗の努力
そのような環境下においてに安心して来店して貰えるよう店舗も新しい取り組みを求められました。
複数の店舗の事例を見てみると概ね以下のような対応がなされています。
①顧客は常に6フィート離れて立つ
②最大収容人数は10人、訪問時間を15〜20分に制限
③こまめな消毒。店員と客の手を消毒し、触れたもの、近くにあったものすべてを消毒
そしてアメリカらしい取り組みがトレカ版ドライブスルー。
事前に注文を受けた商品をロードサイドで受け渡しするというもの。
しかし、これらの努力は店舗、特に個人経営店にとって大きな負担になっています。
とあるオーナーは「1日16〜18時間働いている」と語っています。しかしそれでも「売上の減少を補うため地元での配達も考えている」と記事のインタビューに答えていました。
3.ネットの活況
ロックダウン地域では、これまで「地元密着、対面重視」だった店舗も生き残りのためインターネットへの移行が強いられます。
そんな店舗の1つ「スポーツカードジャンクション」はオンラインチャネルは一応持っていたものの、ほとんど利用されず半年間で12件しか注文がありませんでした。
しかし、ロックダウンで営業ができなくなった後は、1週間で100件の注文をネットで受けるようになったそうです。
もともとオンラインでの販売を主力にしていた店舗ではネットの活況がさらに顕著です。
オンラインショップも経営している店主は「オンラインでの売り上げは常に好調だったが、ロックダウン以降は『お祭り騒ぎ』だ」と述べているほど。
同店主曰く、ネットの活況は「リアル店鋪の閉鎖」以外にも理由があるとか。
「コレクターは家に閉じ込められ、欲求不満が溜まっている。また多くの企業がオフィスを閉鎖し、コレクターも自宅で仕事をしているため、勤務時間中でも監視されていない」
「ネットショップが手に入れたのは、退屈していて、会社が監視していない、自宅で働いているコレクターだ」
4.ビンテージボックス、ビンテージカードの仕入れの難しさ
トレカショップにはメーカーから商品を入荷して販売する店舗のみならず、全米各地からビンテージボックスやビンテージカードを探し出してきて販売する店鋪があります。
後者の場合、販売はネットであっても、仕入れはローカルショップやローカルカードショーでの購入であるため、コロナ禍は在庫の補充を妨げています。
とあるディーラーは買い付けのための移動手段がなかったり、買い付けの場であるローカルカードショー自体が中止になっているため、買い手はあっても仕入れができないと嘆いてます。
また、BBCE(BaseBall Card Exchange)の担当者もネットのインタビューに対して次のように語っています
「BBCEが認証に販売するためのビンテージボックス売り手は、現在本当に減っている。今は誰もが買い手であり、売り手ではない。」
カードショーの変容
1.リアルイベントは延期または中止
カードショーがコロナの影響を受けた最初の報道は3月だったと記憶しています。
同月にシカゴで開催予定だったChicago Sports Spectacularが前夜に急遽中止を発表しました。
これ以降、各地のローカルカードショーやイベントで中止が出始め、毎年7月末に開催されているNationalも12月に延期されることが決まっています。
2.バーチャルカードショーのスタート
一方で、新たな取り組みとしてリアルのカードショーに代わるバーチャルのカードショーの準備が進められています。
Sports Card Investorはナショナルが開催される予定だった7月29日から8月2日に、無料のオンラインスポーツカードショー「バーチャルスポーツカードコン2020(別名:バーチャル)」を開催します。
「バーチャル」では全国のディーラー、グループブレーカー、メーカー、特別ゲストとともに、YouTubeとInstagramで無料でライブストリーミングされ、またディーラーは放送中にリアルタイムでそれらのカードを販売することができます。
同じようなバーチャルカードショーはカナダでも計画されています。
毎回200以上の出展者が100,000平方フィートのスペースを占めるトロントのSport Card Expo。
このカードショーもコロナ禍で延期されましたが、リアルショーの延期と合わせてオンラインでショーを開催することも決定されました。
6月19日から20日に予定されているこのバーチャルカードショーでは、参加者は自宅等からカードショーのウェブサイトにアクセスし、オンラインの「ブース」を運営する出展者との間でライブで購入、販売、取引することができます。
このショーはebayと提携しているので、売買のプラットフォームは安定かつ信頼できるのもウリの1つとなっています。
またショーに付き物のゲストQ&Aやオークション、さらにケースブレイク等もリモートで参加でき、参加者同士で連絡先を交換したり、非公開でチャットできる機能も付与するそうです。
シングルカードへの資金流入
コロナ禍でシングルカードの購入意欲が高まっているという指摘はいくつか見受けられます。
その理由として示されているものには2つあるようです。
一つは新商品の需要に対する供給の少なさと価格の高騰。
カードメーカーの印刷所が閉鎖されることでスムーズな供給が滞り品薄になる、又は特にNBAで顕著な「価格の高騰」により購入できるボックス/パックが減ることで、代替的にシングルカードで購入意欲を満たすというものです。
もう一つは株式市場から逃避させた資金が緊急避難的に現物資産であるトレカに流入するというもの。
「ジャストコレクト」のレイトンシェルドンはこの投資的なカードの値動きについて次のように話しています。
「現代のシングルカードは、価格変動の影響をヴィンテージカードよりもはるかに受けやすい」
つまり、株式市場から逃避させた資金が緊急避難的に現物資産であるトレカに流入するのであれば、ボラティリティが低い、評価の定まったカードが対象になりやすいということでしょうか。
一方で、とあるサイトはシングルカードのマーケットについて次のように予測しています。
「失業率が増加し続け、経済が景気後退の長期的な影響を感じるようになると、潜在的な売り手の数は大幅に増加します。どちらかと言えば、家にいなければならない人々は、自分が持っているものの在庫を整理し、販売するようになるでしょう」