【直筆サインを知る】UD-ジョーダン独占契約の影響

Q. ジョーダンの独占契約は他社にどのような影響を与えていますか。
A. ジョーダンを主としたカードの発行禁止のみならず、「掠った」程度のものでもUDとの争訟に発展するとの牽制効果を与えています。

 

アッパーデック社(以下「UD」)とNBAのレジェンド、元シカゴブルズのマイケル・ジョーダン(以下「ジョーダン」)の独占契約契約は過去のブログ記事「マイケル・ジョーダンとUDの独占契約」にて紹介しましたが、この独占契約は競合他社に対してどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

 

総論:NBAライセンスに優先

現在、NBAのトレーディングカードを発行するライセンスを得ているのはパニーニ社ですが、現行シリーズにおいて同社からジョーダンのトレーディングカードは発行されておりません。
この点でジョーダンの独占契約はNBAのライセンス契約に優先すると推測できます。

 

一方で、UDはNBAライセンスを取得していないため、シカゴブルズ、ワシントンウィザーズなどNBAチームのロゴが入ったジョーダンのトレーディングカードは発行できません。

※この独占契約における「ジャージーカード」の扱いに関する考察は今回は省略します。

 

なお、ここでいう「トレーディングカード」とは大きさが「2.5インチ×3.5インチ」のものを指します。

 

 

 

各論①:パニーニ社

UDはジョーダンとの独占契約を侵害しているとして、2020年にパニーニ社を訴えました。

UDが侵害行為として掲げたカードがこの2枚


いずれも背景にジョーダンが映り込んでいます。

UDはこのカードについて、カードの価値を高めるためにパニーニが「意図的に」カードの画面からジョーダンを排除しなかったと主張。
さらに自らの主張を裏付けるため2007にトップス社が発行したD.Jeterも引き合いに出し、背景がコレクターの間で話題となり、カードの価値を高めることがあることの証左としました。

これに対してパニーニ社はあくまでカードのフォーカスはピッペン、ロドマンに当てられており、ジョーダンのカードには該当しないとしてUDと争う姿勢を見せています。

 

 

 

各論②:トップス

上述のUD v パニーニ社の訴訟が明らかになった後、トップス社はジョーダンの独占契約に配慮していた例が発見され、話題になりました。

 

それが00-01 Finest john Starks Finest Moment
ネットでは“John Starks dunk on jordan“とか”The Dunk”とか題されていますが、元のシーンと見てみると右端にジョーダンが映り込んでいます

さらに、これは93−94 Stadium Clubにも収録されており、当時はジョーダンがそのまま掲載されていました。
ジョーダンの独占契約が92年からスタートし、かつ93-94はジョーダンの1回目の引退後であるため、93−94当時の権利関係の整理は不明ですが、少なくとも2回目の引退後である00−01にはTopps社は独占契約に配慮していたのでは無いでしょうか。

 

 

 

各論③:リーフ

リーフ社とUDは長らく闘争状態にあり、そのきっかけもジョーダンです。

事の起こりは2017年、リーフ社が自らのブランドでジョーダンのジャージーカードを発行したことにあります。

これらのカードにつき、ジョーダンとの独占契約に抵触するとリーフ社を訴えたのです。

※この訴訟で保護されるべきは誰の権利なのか(権原者は誰なのか)について議論がありますが、細かい議論になるためこれも今回は省略します。

 

これに対し、リーフ社はUDがNHLカードの発行に際しディーラーに圧力を掛け、リーフ社を含む他のカードメーカーを不当に排除しようとしていると別訴を提起。

するとUDはリーフ社とBGSの関係者の証人喚問を求め、彼らの疑わしい関係を持ち出すなど泥沼的な闘争を繰り広げています。

 

話をジョーダンのカードに戻すと、リーフはUDと争いながらもジョーダンのジャージーカードに微妙な変更を加えています。

 

明確にいつからかは調査していませんが、年度毎の発行カードを見ていくと
2017年

2018年

2019年

 

2019年のカードではジョーダンの「ブルズ」ジャージーではなく、顕彰額のようなデザインを使用しています。

この変更理由は明らかになっておりませんが、個人的には2つの理由があるのでは無いかと思います。

 

UDとの争訟
リーフ社がジョーダンのカードの表記を考えるとき、争っているUDのことを全く考慮していないというのは考えにくいでしょう。特に次に掲げる2との関係で、UDに対して脇の甘い部分を見せたくなかったのでは無いでしょうか。

 

カード写真と使われているマテリアルの相違
一般的人が見たとき、ジャージーの写真が掲載されていればそのジャージーを使用していると思うのが普通でしょう。
少なくともそう主張できる余地は残らないとは言えません。

しかし、次の2枚ではカードに使われているマテリアルがジョーダンのブルズジャージーでは無いことは明白です。

1枚目はウィザーズジャージー、2枚目はジャージですらなくゴルフバッグです

※↑は筆者個人の調査によるもので、リーフが明言しているものではありません。

 

流石にゴルフバッグとなるとジャージーの画像とは大きく掛け離れます。
いくら裏面にディスクレ文言が定められているとは言え、「消費者保護の観点」からメーカーの表示責任が問われないとも言えません。

 

UDと訴訟している中で、自らに不利に働きそうな事実は排除したかったのでは無いでしょうか。

 

 

 

他社によるジョーダンのカード掲載にUDが神経質な理由(推測)

UDがパニーニ社やリーフ社に対して主張している権利は無理筋であるという見方もあります。
カードメーカーは互いにこれまでも訴訟を繰り広げているので、そのあたりの感覚はUDも持っているでしょう。

では、何故、無理と感じられる主張でもUDは争うのでしょうか。

 

個人的には前回のジョーダンの独占契約延長に際してUDが発表した「ジョーダンの希少価値化」が関係しているのでは無いかと考えます。

 

独占契約の延長時、UDはジョーダンの直筆サインの希少価値を高める事を明言しました(「マイケル・ジョーダンとUDの独占契約」を参照ください)。

それと前後してジョーダンの直筆サイントレカの発行量が減少してきたのですが、それと同時にジョーダンのトレカ自体も発行数が減っているように思われます。

ジョーダンの直筆サインのみならず、通常トレカの希少価値化も目指すのであれば、自らの発行数を減らすと同時に他から代替的なものでもリリースされないようにする必要があります。

ジョーダンをカードに利用すると面倒事が増えるということを総称を通じて周囲に伝えることで、牽制しているのでは無いでしょうか。

 

…ここから先は個人による完全な「妄想」ですが、
中国およびアジア圏のNBA新興マーケットでパニーニが「日本でのUD」と同じ轍を踏んだとき、

UDが再び返り咲くチャンスをものにするために「ジョーダン」や「Fleer商標類」という武器を密かに磨いているように見えてしまいます。