「皮紙」というものをご存知でしょうか。
ペンで文字や絵を書きつけるために作られた皮で、セルロースでできた「紙」が普及する前の代表的な筆記具です。
有名なものは羊の皮を使った「羊皮紙」ですが、牛の皮など他の動物が利用されることもあります。
主に貴重な文献を書き記すために使用され、今でも15世紀などに手書きされた皮革の写本が綺麗に残っています。
ここでちょっと「サインボールの現況把握(その2 前編)」で考察したことを思い出してみましょう。
通常のサインボールの滲みは、インクが革の繊維の間に入り込みすぎて拡散したことが原因であると推理しました。
では、皮紙の写本は500年以上経ってもインクが滲んでいないのでしょうか?
正解は、皮紙でも滲み止め処理(サイジング)が行われているのです。
皮紙では石膏の粉などを「滲み止め剤」として使います。他にはチョークやサンダラックなども使われるようです。
サイジング処理がなされている皮紙の写本は500年経ってもインクが止まり、サイジングの無いサインボールは10年そこらで滲んでしまう・・・
一手間で大きな違いです。
実は、サインボールの滲みの原因にたどり着いたのも、これら皮紙の製造工程がヒントになりました。
つまり、
①「西洋紙ではサイジングが行われている」
②「革製品に使われている真皮部分は(紙と同じく)繊維の塊である」
③「皮紙でもサイジングが行われている」
という情報から「サインボールでは革の繊維にインクが拡散することで滲みが生じる」という仮説を立て、
これがアメリカ図書館協会のコメント「サインボールでは経年によりインクがインクラインから革に拡散する」という説明と合致することから、先のブログでは考察として展開したのです。
また原因とプロセスを整理することで
まだ思考実験の段階ですが、ボールにサインを貰う前に予めサイジングができれば滲みを抑制できるのでは無いかとか、次に繋がるヒントも得られます。
サインやメモラの保管において経験的主観論から一歩踏み出し、隣接他分野における知見を踏まえた客観的な「予防的保存策」を検討していくこと。
『真贋検討』が半人前程度には仕上がった私の次のテーマです。
ただ「真贋論議」も「予防的保存策」も「本物をちゃんと残していく」という点では表裏一体なのかもしれません。