【保存】考察:サインボールの現況把握(その2 後編)

前回に引き続きサインボールの「滲み」についてお話しします。

 

 

 

「サインの滲み」の違い

前回は「インクが革の繊維間に広がっていくことにより生じる」サインボールの滲みについてお話ししました。

しかしそれ以外にもサインボールが滲む原因があるようです。

それがこのテッドウィリアムスのサインボール。

このサインボール、通常のボールよりも革に光沢があり、下方にはテッドの顔写真も印刷されています(青矢印部分)。
これは写真等をプリントする「塩ビ(PVC)製のサイン用ボール」(以下、便宜上「PVCボール」と呼びます)に見られる特徴です。

もしPVCボールであればサインの筆記面は革では無いため、前回のサインボールとは異なる原因で滲みが生じていることになります。

 

 

 

油性ペンの注意点

滲みの原因はペンと筆記面の相性にあります。

そのため、次にサインに使われたペンについて考えてみましょう。

 

言うまでもなくサインに最も使われているのは「油性ペン」です。
油性ペンは高い固着性を持ち、耐水性も良好。乾きも早いため、サインに適した特性を有しています。

今回のテッドウィリアムスのサインボールもインク跡から考えて、油性ペンが使われたと考えるのが妥当でしょう。

しかし、油性ペンにもいくつか短所があります。
その1つが水性ペンより裏うつりしやすいこと。

そしてもう1つある短所が「塩ビ素材とは相性が悪い」こと。
油性ペンを塩ビ(PVC)素材に使用すると筆記面を溶かしてしまうのです。

この現象は意外と身近で起きており、例えばカラーボールに書かれた名前が滲んでいたりするのを見たことがないでしょうか。

カラーボールは塩ビ製なので、このように油性マジックで書いた名前が滲んでしまうのです。
この塩ビと油性ペンの相性については文具メーカーのサイトのほか、油性ペン自体にも記されています。

 

 

油性ペンは塩ビ製ボールのサインを滲ませる

上述の考察より、
テッドウィリアムスのPVCボールは油性ペンでサインが書かれたため、インクが塩ビを溶かしながら流れ出した
と考えられます。

 

滲んだインクは戻せませんし、塩ビが溶けるのも止めることもできません。

 

化学反応は温度が高いほど促進されるといいます。
もし手元にこのようなサインボールがあるのであれば、気温/室温と滲みの関係を注意深く観察し、反応が鈍化する温度帯を維持するというのが今後の保存方針になるかと思います。

 

このように、サインボールの現状を確認することにより、「考える保存方法のうち何が効果的で何が無意味なのか」「限られた資源をどのアイテムに投入すべきか」など、予防の効果を最大限にできる今後の施策方針を検討することができるようになります。