【保存】考察:サインボールの現況把握(その1)

Q. アイテムの現状を把握する意味はなんでしょうか。
A. アイテムに将来発生しうる劣化リスクを予測し、予防策を検討する土台となることです。

 

偶発的なシミか意図的なしみか

以下の2つのボールの「シミ」

この2つのシミは同じように見えますが、異なる理由により生じた可能性があります。

今回はそのシミの原因について考察していきたいと思います。

 

 

 

油脂の跡

まず、左側のボール。

点々と付いている茶色いシミ、これは「脂」が原因である推測しています。

というのもボールの外皮は「牛の皮」。生きているときには体液や脂肪等が循環していました。

それらは「皮」から「革」に加工される過程(いわゆる「鞣し」)で除去されますが、鞣された後にも残っていた脂は紫外線等により劣化(酸化)して現れてくることがあるといわれています。

 

また、革の脂のみならず、人の手からボールに移った「油」がシミになることもあります。

今回のサインボールを見ると、サインをするときに持ちそうな部分にシミがあるので
もしかしたらサインするときにボールを保持した指の跡なのかもしれません。

もちろん、今回のサインボールのシミが牛・人いずれに由来するかは不明ですが、シミの状態を見ると油脂によるものである可能性は決して低くはないではないでしょうか。

 

 

 

サインの固定剤

一方で、右側のボール。
ボール全体にシミが見られるものの、特にサイン部分にシミが集中しています。

このサイン部分のシミの原因は「シェラック(セラック)」という
絵画制作において絵具をキャンバスに固定するために使われる定着剤です。

このシェラック、かつてはサインの保護を目的としてサインボールにしばしば使われていました。

なお、現在ではサインボールにシェラックが使われることはありません。
というのも経年によりシェラックが変色し、サインボールを曇らせるのみならず、シェラックが縮むことでサインがボールの牛革から引き剥がされるリスクがあることが指摘されているからです。

 

このように一見同じようなシミに見えますが、その原因は全く異なるのです。

 

 

 

油脂とシェラックの現れ方の違い

「油脂」と「シェラック」はその現れ方に違いがあります。

 

シェラックは人為的に塗りつけてあるので、人の手が入っているのがわかるように現れます。
今回のようにサイン部分に重点的に現れたり、筆で塗りつけたような形で茶色くシミができているのであれば、シェラックの可能性があります。

 

例えばこのマルチサインボールもそれぞれのサインに重なるようにシミができているのでシェラックが塗布されてるのだとわかるでしょう。

これに対して、油脂のシミはポツポツとランダムに現れ、白革とシミの境目も自然にぼやけています。

 

 

 

「保管」から「予防的保存」へ

上述してきたようにサインボールが置かれている状況を把握することは、これらのサインボールの保存方法を検討するスタート地点になります。

 

例えば油脂のシミであればアメリカ図書館協会(ALA)のアドバイスのように、サインボールを取り扱うときには手袋をするか、縫い目部分を持つようにします。

 

またシェラックであれば、経年劣化でボロボロと剥離することがあるため、移動を最小限に抑えたり、湿度や温度といった保存環境に一層の注意を払う必要があるでしょう。

 

「単に保管する」から「アイテムの性質や状態に応じた保存環境を作り、劣化を予防する」へ

博物館での資料保存で掲げられている「予防的保存」の考え方は、トレカ/スポーツメモラビリアでも有効であるように思います。

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