【保存】なぜ、光に当たると退色するのか。

窓際に本棚を置いておくと、いつの間にか本の背表紙の色が変わっていることがあります。

この原因が「光」であることを我々は知っていますが、ではどうして光が当たると色が変化してしまうのでしょうか?

また、ウルトラプロなどが販売しているトレーディングカード用のケースやサインボール用のケースはUV(紫外線)カット仕様になっています。

これもなぜ「UV」なのでしょうか。

 

今回はトレカやサインの保護で常識とされている「光」の作用のうち、「退色」にまつわる仕組みを考えてみましょう。

 

 

 

光が原子の結合を変えてしまう

 

光は光子(フォトン)と呼ばれる光の粒子の集まりです。

 

つまり「光が当たっている」とは「光子が物にぶつかっている」状態と理解してください。

光子は、ごく短い時間ですが、当たっているものの原子結合を切断し、不安定な状態にします。

 

不安定な状態のものは安定した状態になりたがるので、多くの原子はすぐに元の安定した結合状態に戻ります。

 

しかし、中には元の結合状態には戻らず、結合が切れて他の原子と結合してしまうことが一定の確率で発生します。

 

そしてこの変化は一定確率が生じるため、光が当たり続けることにより、結合が変化した分子が増えていき、見た目にも変化が分かるようになっていきます。

 

これが光による退色の原因だといわれています。

 

 

 

結合が切断される確率は光子のエネルギーに左右される

原子間結合が切断される確率は、光子のエネルギーが大きいほど高くなります。

 

光子のエネルギーは以下の算式で計算されます

 

『E=hc/λ』

h:プランク定数(一定の値)

c:光の速さ(一定の値)

λ:波長

 

ここで「プランク定数」と「光の速さ」が一定の値であることに注目です。

hとcが一定の値であるのであれば、エネルギー(E)が大きくなるのはλ(波長)が短い場合であることがわかります。

 

光の波長はX線→紫外線→可視光線→赤外線の順に長くなっていきます。

 

つまり、紫外線は光子のエネルギーが高く、原子間結合が切断されやすい光ということになります。

 

そのため、退色を防ぐために「UVカット」の機能が重要となるわけです。

 

 

 

退色の原因は「光」だけではない

 

これまで述べてきたように、光の影響は大変大きく、保存においては最も気を使うべきファクターとなります。

 

しかし「光」は「退色の原因」になりますが、「退色の原因」は「光」だけではないということにも注意が必要です。

 

例えば、「オゾン」や「揮発性有機化合物」などの大気中の物質も退色をもたらすこともありますし、同じ環境でもサインや印刷に使用される「インクの成分」によって退色の程度が異なることもあります。

万年筆に関心をお持ちの方なら「没食子インク」の影響についてお聞きになったことがあるかもしれません。

 

更に、退色という現象面だけ捉えてみれば、以前ブログに掲載した「牛革でのインク滲み」や「PVCの溶解」もインクが薄くなる現象といえるでしょう。

 

 

「光」による場合も「オゾン」による場合も「滲み」による場合も、目に見える現象は「サイン/インクの退色」だとしたら、各々の仕組みを知らないと退色の原因は明らかになりませんし、以後の対応策も検討できません。

 

ここがアイテムを保存していく上で難しいところで、このブログでも「直筆サインの保管方法」は閲覧数の多い記事なのでこのあたりのニーズは多いと思うのですが・・・

 

残念ながら、コレクタブル分野で最も遅れている領域の1つでもあるようです。