【トレカ】PSA鑑定受付停止までの経緯

 

Professional Sports Authenticator (PSA)は2021年4月に鑑定依頼件数の増加を理由に鑑定依頼受付を一時停止すると発表しました。

受付停止に至るまでどのような過程を経ていたのか、PSAの公表情報をベースに整理してみます。

※注意
PSAの受付停止にかかる各数値はその情報源によりブレがあります。そのため、極力PSAが公表した数字(決算報告、アナリスト質疑、経営陣へのインタビュー記事)に依拠するように努めていますが、やむを得ず報道機関の推定値を引用する場合には
【報道】と注記いたします。

 

 

鑑定依頼受付件数の推移

PSAが受付停止をしたのは、受付件数が増加し処理が間に合わなくなったことが原因です。

ここでは少ないながらも公表数値に基づき、受付件数の推移を見てみましょう。

<1日あたりの受付件数>
2020年2月時点  :    9,700件/日
2020年5月時点:   15,000件/日
2021年3月31日 : 330,000件/日

※2020年の数値は、公表されていた1週間の平均受付件数を7日で割りました。
※2021年の数値は、公表されていた30日・31日の合算件数を2で割りました。

鑑定受付件数が約1年(2020年2月~2021年3月)で34倍にも増加しています。

 

この増加についてPSAの親会社であるコレクターズユニバースのオーランド氏は2020年2月の決算報告において

若い世代のコレクター、ディーラー、ケースブレイカーが(コロナ禍により)パックの開封を増やしているため

と説明しています。

また報道機関の分析によると「低金利下での資産運用として資金が流入してきたため」【報道】ともされています。

 

 

受付件数増加への対応策

鑑定受付件数の増大を受け、PSAもその対応策を講じてきました。

対策は大きく分けて
「鑑定料の値上げ」
「業務改善」
「人員増加」
「業務スペースの確保」
そして「受付停止」です。

以下では「受付停止」以外の実施時期を見ていきましょう。

 

「鑑定料の値上げ」

鑑定料の値上げが確認できたのは以下の3回です。

2018年3月
2020年6月
2021年3月

鑑定件数を増加させていたのが「Ultra-modernの低額カード」【報道】であるため、主に低額コースの件数を抑制または平準化するための施策だったようです。

2018年3月の値上げも同趣旨だったのかどうかは明らかではありませんが、その可能性も踏まえてここでは掲載しました。

 

「業務改善」

2019年3月:受付情報のシステム入力体制の改善&鑑定依頼カードのステータスの見える化
2020年2月:外部コンサルタントによる業務の見直し・改善
(2021年4月:Genamintの買収)

企業内部の活動のため、情報が公表されていないものも多くあるとは思いますが、アナリスト質疑等で明らかにされたものをリストアップしました。

2019年から直近までの流れを見ると、受付部分から鑑定の本丸部分へ順次改善が行われていたことが見て取れます。

 

「人員増加」

人員増加については何時何人増えたというのは時系列で公表されていないため、大まかな数字ですが、

2021年4月のインタビューに対し、コレクターズユニバースのターナー氏は

「この1年で300人以上採用した」

と発言しています。また「直近のコレクターズユニバースでの採用は全てPSA人材である」【報道】とも報じされています。

おそらくPSAとしては増加する受付件数への対処策の柱に人員増加を据えていたのではないでしょうか。

受付停止までの間、PSAの「人員募集」の広告がとても多くみられました。

またPSAが発行する雑誌「SMR」2020年12月号では「The Challenges of Grading Ultra-Modern Trading Cards」という特集を組み、PSAの鑑定フローを説明しつつ、最後には「Join the PSA Team」と人材募集につなげるという「力技」も繰り出しPSAのひっ迫した台所事情が垣間見える場面もありました。

 

「業務スペースの確保」

鑑定待ちのカードや人員が増えるとそのスペースが必要となります。処理数増加の直接的な手段にはなりませんが、処理スペックを高めるために必要な増床も実施されています(2021年3月決算報告時に発表)。

増床面積は58,814平方フィート。
平方メートルに換算すると「5,464平方メートル」程度のようです。

調べてみると代々木第一体育館のアリーナ面積(下記画像)が4,000平方メートルだそうなので、かなりの増床を行ったといえるのではないでしょうか。

 

 

鑑定処理件数の推移

上記の対応策を講じたことにより、処理件数はどのように推移していったのでしょうか。

ここでも公表数値に基づき、処理件数の推移を見てみましょう。

<1日あたりの処理件数>
2019年5月時点:       6,900件/日
2019年末時点:      8,200件/日
2021年2月:             8,600件/日
(2021年4月21日:25,000件/日)
※2019年・2020年の数値は、公表されていた四半期の数字を日数にて割りました。

 

 

処理件数は2019年5月から2021年2月までで1.25倍となっています。

 

私見ですが、処理件数が大きく伸びていない理由として大きく2つあると思われます。

1つめは人員の不足および成長スピードです。

上述したとおり、PSAは人員獲得に苦慮していたふしがあります。鑑定依頼件数が増加していたのはBGS・SGCも同様であると考えられ、またCSGの鑑定業務参入も重なりました。
であれば各鑑定会社とも鑑定人の引き留めに力を入れ、人材の流動性は必ずしも高くはなかったことが推測されます。

また鑑定スキルの習得に時間がかかることは想像に難くありません。

 

2つめは業務プロセスの手間です。

上述したSMR2020年12月号の記事では、PSAがカード鑑定する際のフローの一端が紹介されています。

それによるとPSAでは鑑定対象カードに鑑定番号(Cert#)とは別に、そのカードの種類を示す「Spec Number」を付番しているそうです。例えば有名な『1952 Topps #311 Mickey Mantle』には「0101523110」というSpec Numberが付されており、

上記マントルならば、
Spec#:0101523110、Cert#:09019171」Spec#:0101523110、Cert#:50065360」
となります。

 

このSpec Numberは2016年までのカードにはほぼ付番されているものの、2017年以降、いわゆる「Ultra-Modern」に区分されるカードの付番は未了だと同記事は記しています。

つまり、鑑定依頼カードが2017年以降の場合、Spec Numberが付番されているかどうかを確認し、付番されていなければその番号の設定から作業が始まると考えてよいでしょう。

これがアメリカのスポーツカードのみならず、日本のBBMやエポック、ポケモンやMTGなどでも共通であれば、Spec Numberの付番の範囲は相当に広いと思われます。

2020年2月の決算報告にてオーランド氏は

「バックログ(未処理カード、在庫)の80%がModern以降のスポーツカードである」

と明らかにしています。

もちろんこれだけがボトルネックということはないでしょうが、新しいカードの増加がPSAの業務を煩瑣にしていたとは言えるのではないでしょうか。

 

 

バックログの推移

上述した受付件数から処理件数を除いたものが「バックログ」といわれる未鑑定カードの数になるわけですが、これらはどのように推移していたのでしょうか。

 

残念ながらバックログの件数についての公表は極めて少なく、それだけ示しても有意ではないため、報道の推定値も参照します。

2020年2月:100万件
2020年5月:100万件を超えてなお増加中
2020年7月:150万件【報道】
2021年3月:数百万件【報道】
2021年4月(停止前):1000万件に達する可能性がある【報道】2020年2月・5月はオーランド氏の発言から引用したものです。

 

2020年2月の時は100万件のバックログがあることを顧客からの信頼の裏返しであるという文脈でアナリスト等に説明していましたが、2020年5月の決算時にはバックログをマイナス要因として捉えています。

それ以降は私が調べた範囲ではオーランド氏などのPSA/コレクターズユニバースの経営陣の発言事実としての数字は拾えませんでした。

 

このような経緯を経て2021年4月1日に6月30日までの受付停止を迎えることになりました。

 

 

7月1日の受付再開にむけて

7月1日に受付再開するためPSAはバックログを精力的に崩しているようです。

伝わってくる情報は少ないのですが、コレクターズユニバースのターナー氏が述べたところによると現在の1日あたりの処理件数は2万件から2.5万件だそうです。

これは2月時点の処理件数の3倍にあたり、2019年5月から2021年2月までの処理件数の伸び率に比べて大幅に向上しています。

またテクノロジー会社であるGenamint社を買収し、鑑定にAIを取り入れることも発表されています。

AIがいつから運用されるのか(すでに運用されているのか)は分かりませんが、受付再開後に予想される鑑定依頼の大波への備えともいえるのではないでしょうか。

 

今回ざっくりと調べた結果を纏めましたが、PSAの受付再開までに競合他社がどのようなシェアを獲得するのか、また鑑定の次のムーブメントの兆しであるAIがグレーディングをどのように変えていくのか今後が楽しみである反面、日本のコレクターとして我が国の環境をどうとらえるべきなのか問題を投げかけられている気もしました。