【保存】直筆サインの保管法②サインボール

 

 

Q.サインボールをより良い状態で保管するにはどうすればよいでしょうか。
A.サインボール自体が孕む劣化原因に対応することが必要です。

 

おさらい:サイン劣化の4大原因

直筆サインの保管方法」でお話しした通り、サインを補完するうえで注意すべき事項が4つありました。

1つめ:温度
2つめ:湿度
3つめ:光
4つめ:抗酸性(Acid-free)

✔︎温度は18〜20℃前後、湿度は40〜60%を維持する。

✔︎ケースのUVカット率は「ガラス(30%)」より「アクリル(90%)」のほうが高い。

✔︎ケースにはできれば中性(acid-free)素材を使用しているものを選ぶ。

 

これらを注意することで直筆サインおよびアイテムの劣化を遅らせることができるという話でした。

 

ディーラー等が行なっているサイン保管指南でもこれ以上のものはなく、今でもこれがコレクターが求める品質を維持できる方法だと認識しています。

 

 

 

HOFとALAの提唱

 

しかし、さらに調べていくとアメリカ野球殿堂博物館(National Baseball Hall of Fame and Museum。以下、単に「HOF」)はサインボールについてこれらと相反するようにも見える保存管理を行なっていることが明らかになりました。

というのも彼らは

展示の際にはサインボールをアクリルケースに入れることもあるが、保管時はアクリルケースから出している

というのです。

 

更にアメリカ図書館協会(American Library Association。以下、単に「ALA」)もサインボールの保管について同じ趣旨のことを提唱していることもわかりました。

これはどういうことなのか。
その理由を明らかにする前提として、まず野球ボールの作りを確認しましょう。

 

 

 

野球のボールの構造

 

野球のボールは核となるコルクが何層かに包まれた構造を持っています。

工程的には
①コルクにゴムをかぶせ、さらに紐状の羊毛を巻きつける
   
②羊毛に接着剤を吹き付けて加工する
   
③裏面(羊毛との接触面)に接着剤のついた牛革を貼り付ける

   ↓
④牛革を縫い合わせてボールが完成

 

そして完成したボールをみてみると縫い合わせのために紐を通した部分に多少の隙間が開いているのが見えます。

 

 

接着剤が問題

この羊毛と牛革の間に使用される接着剤が問題であるとHOFは指摘します。

時間が経つにつれ、接着剤は縫い目の孔から流れ出て、または革から染み出してくる。そのときに空気の循環がなければ接着剤がインクおよび牛革と化学反応を起こし、サインの劣化やボールの変色をもたらす可能性がある

 

そして、アクリルケース内ではここでいう「空気の循環」が起きないというのです。

 

ALAも表現こそ違えども、

(アクリルケースでの)長期保存は革が呼吸できないため推奨していない

としています。

 

つまり密閉空間ではボール自身の「毒」によってサインとボールが蝕まれてしまうというわけです。

 

 

 

サインボールはどのように保管するべきなのか。

アクリルボールが長期保管に適さないというのであれば、どのように保管すればよいでしょう。

これついてHOFとALAはそれぞれ管理方法を提案しています。

 

Acid-freeティッシュに包んで保管

これはALAが提案している方法です。

ティッシュを使用することで通気性を維持し、滲み出た接着剤の成分がボールに留まらない様にします。
その際にはティッシュの成分によるダメージをなくすために「無酸性」のものをつかうことを勧めています。

 

 

Barrier Boardの箱に入れアクリル製の蓋をして保管

これはHOFが提案している方法です。

言葉だけで説明するのは難しいので、箱の現物を見てみましょう。

ケース上部がアクリル製の蓋になります。ここは透明なので蓋を開けずとも中のサインボールを確認できます。

 

そしてケースの下部(ボールを保持する側)。
材質はBarrier Boardと言われるものです。

日本語ではなんという用語があてられているのかわかりませんが、材質内でポリエステルによる遮蔽がないため空気の往来を妨げない性質を持っています(No internal polyester barrier which prevents materials from receiving adequate air flow and intensified, unwanted internal chemical reactions)。
これらの材質も当然acid-freeです。

またボール受け部分は四方の壁を金具で止めています。これは接着剤を使用しないための対応です。

 

 

アクリルケースに通気口を開けて保管

これもHOFが提案している方法です。
これはBarrier Board Boxを採用しない(できない)場合の次善策としての提案です。

 

 

 

結局、どうすればよいのか(問題整理)

 

ではHOFとALAの提唱を受けて、我々コレクターはどうすべきなのでしょうか?

最終的には「個々人の判断」という結論に至るのですが、それでは身も蓋もないので、以下では「小生の私見」という前提のもとに問題を整理してみましょう。

 

 

「HOFの提唱するレベルで管理すべきであろうか」問題

まず、第一に一般のコレクターがHOFの提唱する水準で管理しなくてはならないのだろうかという問題です。

冒頭に述べた通り、ディーラーが提唱する保管方法ではHOF等のレベルには至っておりません。

またHOFもALAもその存在意義は「資料のプロとしての長期保存」にあります。
それを裏付けるかのようにHOFは以下のように述べています

We want our collection to look just as good in a couple of hundred years as it does today

であるならば、100年後までの状態維持を求められていない市井のコレクターが専門家であるHOFレベルで保管しているのは稀であるといえるのではないでしょうか。

 

例えば客観的に貴重であると評価されるサインボールや、自分にとってかけがえのない価値があるサインボールについてHOFらが提唱する方法で管理するにしても、それ以外についてはそのレベルは求められないと言える気がします。

 

 

「HOFレベルで管理するにはどうすればいいのか」問題

では、幸運にも客観的に貴重なサインボールを持っていた、または個人的にどうしても劣化を遅らせたいサインボールを持っていた場合には、どうすればよいでしょうか。

 

①「無酸性ティッシュによる保管」はどうか?

無酸性ティッシュは日本でも手に入らないわけではないので実行は可能でしょう。

とはいえ、
✔︎ケースではないので積み上げて保管できない
✔︎ティッシュに包まれるため、観賞する都度ティッシュから取り出さないといけない
✔︎ティッシュのコストが高い
という課題もあります。

 

 

②「Barrier Board Boxでの保管」はどうか?

整理および保管という点では、これが一番見栄えが良く、管理もしやすいでしょう。
問題はBarrier Board Boxの入手方法と値段。

本稿執筆時点で日本でこのBoxを取り扱っている業者を私は見つけられませんでした
そのため、入手するには最悪メーカーから直接取り寄せる必要があります。

また値段ですが、Ultra ProのボールケースがAMAZON.COMで$5.42であるのに対し、barrier board Boxはメーカー直売で$14.65

以上よりBarrier Board Boxを使う場合、手間と費用でサインボールの管理コストが上がるのは間違いないでしょう。

 

 

③「アクリルケースに通気口を開けて保管」はどうか?

提唱された方法の中ではこれが一番実現可能性が高いかもしれません。
ただし、小生もアクリルケースに孔を開けたことがないため、どのような状態になるのかは未知数です。

 

 

 

アクリルケースを時々開封して空気を入れ替えるのは?

 

接着剤の問題が空気の流れだとしたら、定期的にその流れを起こしてやることでも足りるのかもしれません。

 

我々が体感している限りでは、接着剤による劣化は1日を争うような進行速度でもないように思われます。
であれば、時々アクリルケースを開けて日陰干しにすることでも少しは劣化の速度を緩めることができるかもしれません。

 

サインボールには内在する劣化要因があるということを頭に入れておくだけで、サインボールが繊細な面を持つものだという認識が生まれ、結果的にこれらのアイテムを長生きさせることに繋がっていくことと思います。

 

HOFレベルで管理できないしても、彼らの提言を活かしていきたいものですね。

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