【実使用】ベーブ・ルース実使用バット落札額ランキング

Q.ルースの実使用バットで最高落札額はいくらでしょうか。
A.2004年に落札された$1,265,000です。

 

Babe Ruth, Sultan of Memorabilia

 

ベーブルースがアメリカで最も人気のあるスポーツ選手の1人であることに異論はないでしょう。

それはメモラビリアの値段でも明らかであり、「ルースは球場のバケツにもサインした」と言われるほど多くのサインを残しましたが、それでも他の選手のサインよりも圧倒的に高い値段が付けられています。

当然のことながら、サインのみならずジャージーやバットもその値段は別格です。

今回は意外と知られていないルースの実使用バットの落札額を順に見ていきたいと思います。

なお、これらの順位は筆者が備忘としてストックしていた報道記事やオークションハウスの記録に基づくものです。
そのため万が一ピックアップ漏れがあった場合にはご容赦下さい(その際にはご連絡頂けると助かります)。

 

 

第5位 (伝)1932年予告ホームランバット 落札額 $212,587
出品オークション:Leland Auction

 

ベーブルースの伝記には必ずと言っていいほど書かれている予告ホームラン。

病気の少年を励ますため、ルースはホームランを約束し見事それを果たした…

ご存知の通り、この逸話には異論があります。
「ルースはしばしばスタンドを指すモーションをしており、これもそのうちの1つだった」とか、
「ヤジを飛ばすカブスベンチに苛立ち、カブス選手を威嚇したアクションが予告に見えた」とか。

また、この予告ホームランを放ったバットも特定されていません。
一時はメジャーリーグの殿堂博物館に展示されたものがありましたが、後にルースの引退後に作られたバットだったということが判明しています。

つまり、ルースの最も有名な逸話は同時に最も謎に包まれている打席と言えます。

 

ではこのバットは何か?

このバットは元々ルースがWally Bergerに送った1935年のバットと言われていました。
しかしLeland Auctionが再調査した結果、1932年の予告ホームラン時のバットの特徴が一致したと発表。
2018年に「予告ホームランバット」として出品されました。

Lelandの鑑定結果に皆が納得したのであれば、ルースのバットの中でも指折りのストーリーを持ったアイテムとなり、最高値を記録してもおかしくなったでしょう。
しかし、結果をみると残念ながら入札者達はLelandの鑑定に半信半疑だったようです。

夢のバットはまだ何処かで眠っているのかもしません。

 

 

第4位 1918年実使用バット 落札額 $537,750

出品オークション:Heritage Auction

 

このルースのバットは「●●の試合で使った」とか「●●号ホームランを放った」というバットが生み出した逸話はありません。
ただルースが使用したバットです。

それでも50万ドルの値が付けられたのは「1918年」だからだと思われます。

1918年のルースはまだボストンレッドソックスの投手でしたが、シーズンが進むにつれバッターとしての才能を開花させていきました。
そして自身初のホームラン王を獲得します(ティリーウォーカーと同時受賞)。
投手でありながら打撃タイトルを獲得した1918年は打者ベーブルースの第1歩を踏み出した年と言えるでしょう。

また、このバットはルースが使うHillerich&Bradsby(H&B)ブランドの最初の1本となりました。
以降、彼が使うバットはこのバットを原形に作られていきます。

一方で、1918年はボストンレッドソックスにとっても深く刻み込まれた年となります。
この年のワールドシリーズを制したボストンが次にワールドシリーズチャンピオンになるのは2004年。
俗にいう「バンビーノの呪い」です。

つまり、MLBの歴史の大きなポイントであるルースとレッドソックスの明暗を分けた1918年をこのバットを象徴しているといえるのでしょう。

 

 

第3位 第52号ホームランバット 落札額 $930,000
出品オークション:Heritage Auction

 

これはルースがそれまでの本塁打記録を更新する59本を達成した1921年に使用されたものであり、ルースはこのバットで52号を放っています(9月1日対ボストン)。
その翌年、ルースはこのバットをHarry Borgmanに贈り、2005年のオークション初出品までの約80年間、Borgman家で大切に保管されることになります。

また、このバットにはホテルアンソニア(当時のルースの常宿)の便箋に綴られたルースの手紙が添えられており、このことから「Hotel Ansonia Bat」と呼ばれることもあります。

ちなみにこのバット、バレル部分をみると細かい切り傷のような跡が付けられています。
この傷は同時代に活躍したルーゲーリッグのバット(サザビーズ出品)にも見られたものです。

この傷について説明しているものはまだ見たことがありませんが、個人的にはマントルのバットに見られた「waffle iron effect」と同じものではないかと考えています。

 

 

第2位 500号ホームランバット 落札額 $1,000,800
出品オークション:SCP Auction

 

メジャーリーグでは特定の記録を達成した選手達を「●●Club」と称してグルーピングすることがあります。

その中でも人気があるのが「500 home run club」
通算500号のホームランを達成した選手達に敬意を表して贈られる称号です。

ちなみにこの500 home run club、人気故に偽物のマルチサインアイテムが多いことでも有名。
選手別にフェイクサインを紹介している事例集でもマルチサインのフェイクとして唯一掲載されています。
ベーブルースは500号達成者の第1号であり、500号ホームランを放ったのがこのバットなのです。

500本目のホームランは1929年に生まれましたが(対インディアンス戦)、その後しばらくベースが所有しており、ルースがこのバットを友人であるJim Riceに贈ったのは1940年代の半ばに入ってからでした。

Jimは終生このバットを「宝物」として大事にしていたようですが、彼の死後このバットを引き継いだ子ども達にとってはある種の「負担」でもあったようです。

というのも、ルースが試合で使用したバット、しかも500号ホームランを放った逸品です。

落札額からもわかるように相当の歴史的/経済的価値があることは子ども達も理解しており、
友達にルースのバットの話をすることは厳しく禁止され、また(カモフラージュのために?)クローゼットに隠すことも。
さらにはこのバットに100万ドルの保険をかけるなど、盗難・紛失・破損を避けるためにどのように保管/保存すべきか相当に苦心したそうです。

貴重なメモラビリアを持つことの苦労を偲ばせるサイドストーリーです。

 

 

第1位 ヤンキーススタジアムでの第1号ホームランバット 落札額 $1,265,000
出品オークション:SCP Auction & サザビーズ

 

「ルースが建てた家」とも呼ばれた旧ヤンキースタジアムがオープンしたのが1923年4月18日。

その「こけら落とし」とも言える試合でルースがホームランを放ったバットが、これまでのルースのバットの最高額を保持しています。

 

このバットはルースから新聞社を介し、1923年5月に高校のホームランコンテストで優勝したVictor Orsattiに贈られたものでした。

ここまで見てきてお分かりだと思いますが、ルースは記録を作ったバットを気前よくプレゼントします。
特に子どもや野球少年を応援することが大好きだったようで、例えば、自分のサインしたボールを孤児院に寄付し、売却して運営費の足しにして貰うこともよくあったそうです。
そして、このVictorも高校生、第3位で紹介したHarryも10代の野球少年だったと言います。

Victorはこのバットを終生大事にし、晩年介護施設に入所した時にも手放さなかったと言います。
そして彼の死後、遺志により彼の世話をしていた看護師の女性にこのバットは遺贈されました。

 

オークションへの出品はこの女性からで、彼女はオークションでの売却代金を使って彼女が長らく支援しているメキシコの孤児達のためのスポーツ関連財団を立ち上げたいと話していました。
この使い方はルースの考えに合致していたものに違いないでしょう。

 

ちなみに、このバットの落札者は明らかにされていませんが、落札者の代理人を務めていたのはMastronet.Incという会社でした。
このブログを見て頂いている方の中には「mastro」の名前に見覚えがある方もいらっしゃるかもしれません。

この会社は「グレツキーワグナー」を世に出した(そしてトリミングしたと言われる)ビル・マストロが設立した会社です。

このように、スポーツメモラビアの歴史を紐解いていくと、思わぬところで点と点が繋がったりします。

 

ジムソープのフェイクジャージー(後に旧ドンラスが入手し、ジャージーカードを作成)を所有していたバリー・ハルパーの名前をグレツキーワグナーの歴史の中で発見し、グレツキワグナーを世に出したビル・マストロの名前をルースの最高額実使用バットで見つける…

 

トレーディングカード/スポーツメモラビアを横断的に調べていると見えてくる、こういった「書き記されていない」歴史を発見するのもこの分野の面白みなのかもしれません。