広告に感じた「違和感」
クレカの会報に、イチロー選手直筆サインバットの広告が出ていました。
この会報にスポーツメモラビリアの広告が出ることはないため、物珍しさで広告を眺めていたのですが・・・何か「しっくりとこない」。
最初この違和感が何なのか分からなかったのですが、注意深く広告を読み返したら気がつきました。
直筆サインを購入する際に多くの人が気にするであろう「直筆サインの真正性に関する鑑定」について、この広告では明確には記載されていないのです。
証明書/鑑定書の重要性
直筆サイン購入時の最大のリスクは『偽物を摑まされる事』です。
直筆サインが売買されるマーケットでは偽物作りが横行しており、素人からプロ贋作師まで、あらゆるレベルの偽物が日々作られています。
そのため、直筆サインを購入検討する際にも、本物の「証明書」や「鑑定書」が付いていない直筆サインは候補から真っ先に除外されると言っても過言ではありません。
当然、そのあたりは売る側も心得ており、証明書等が付属していることをまずアピールします。
例えば、イーベイで「Ichiro signed bat」と検索してみると、
赤枠はその直筆サインの証明書等を発行している発売元、鑑定会社の名前です。
文字数の限られた出品タイトルに明示するほど証明書等の有無は重要なのです。
今回の直筆サインバットの鑑定(書)は最大3つ?
翻って今回の広告を見てみると、「鑑定済み」「鑑定書付属」といった文言は見当たりません。
おそらく文脈からすると「MLB公式認可を保証するホログラム」という表記でそれを示しているのだと思います。
また、関係しているディーラーや実物画像をみると証明(書)が付属している可能性もありそうです。
しかし、この広告からこれらを「読み解く」には前提となる知識が必要です。
そこで、この「MLB公式認可ホログラム」も含め、この直筆サインバットに「証明書」「鑑定書」が付属している可能性について更に探ってみましょう。
鍵になるのは、広告右下の青枠部分です。
ここから読み取れる真正性証明(会社)は
①MLB Authentication
②Fanatics Authentic
③イチロー選手による公認(及びMill Creek Sports)
です。
MLBの鑑定人が立合い鑑定する「MLB Authentication」
広告中の「MLB公式認可を保証するホログラム」を発行しているのが「MLB Authentication」です。
「MLB Authentication」はMLB機構が管理する鑑定機関で、2000年に発覚した大規模な贋作事件を受けて設置されました。
MLB Authenticationには専属の鑑定人がおり、彼らが自分の目で選手がサインしたこと/ゲームで使用されたことを確認したアイテムにのみMLB Authenticationのホログラムシールを貼付します。
これらより、今回の直筆サインはMLB Authenticationの鑑定を受けていると言えるでしょう。
なお、MLB Authenticattionではホログラム以外の証明書を発行しません。その代わり、ホログラムシールのシリアルNo.をMLB Authenticationのサイトで入力すればそのアイテムの登録情報を確認できます。
なお、詳細については、過去投稿「MLB AuthenticationでのGame Usedアイテムの認証方法」を参照ください。
アメリカスポーツ最大のパートナー企業「Fanatics」
広告にある「米国ファナティクス社」とは「Fanatics」のことだと思われます。
Fanatics社は元々スポーツアパレルを取り扱う企業で、アメリカ4大スポーツと提携しています。
現在では直筆サインアイテムも販売しており、多くの有名スポーツ選手がFanatics社に直筆サインアイテムを提供しています。
今シーズンのNBAドラフト1位のZion Williamson選手もその1人です。
↓ではZionがfanatics社が用意した会場でユニフォームや大判写真にサインしています。
このようにスポーツグッズ/直筆サインアイテムマーケットで実績のあるFanatics社が取り扱っている商品であれば、出自はしっかりしていると言えるでしょう。
なお、通常Fanatics社の直筆サインアイテムには同社の証明書が付属していますが、今回の商品については言及されていないためFanatics社証明書の有無は不明です。
その他、Fanatics社の詳細については、過去投稿「Fanatics Authenticのここが凄い」を参照ください。
イチロー選手公式直筆サインアイテムに付されるホログラム
広告に掲載された画像(赤枠部分)をみると、MLB Authenticationとは別のホログラムシールも貼り付けられているのが確認できます。
拡大した画像がこちら。
これはイチロー選手自らがサインした、または使用したことを証するため、アイテムに貼付されるシールです。
つまり、このバットの直筆サインはイチロー選手の公式直筆サインであると言えそうです。
なお、公式ホログラムが貼られた直筆サインには、別途証明書が付属している場合があります。
それらは、イチロー選手の直筆サインアイテム(トレカを除く)を一手に引き受けている「ミルクリーク社」が発行しており、高額な商品の証明書になるとイチロー選手自身も証明書に署名することがあるようです。
極めて低い確率ですが、もし本広告中に記載のある「代理人立ち会いのもと」が「ミルクリーク社による立ち会い」を指しているのだとすると、同社の証明書が発行されている可能性もゼロではないように思われます。
違和感の正体
上述の考察からすると、「証明書」「鑑定書」が付属している可能性は次の通りです。
MLB Authentication:⭕️(但し、ホログラムシール)
Fanatics:🔺(発売元のため証明書を発行している可能性はあるが、確信できる要素は無し)
イチロー選手公認:⭕️(但し、ホログラムシール)
Mill Creek Sports:❌(他事例から推測すると証明書を発行している可能性はあるが、あくまで「可能性はゼロではない」という程度)
私の個人的な感覚では、この価格帯の直筆サイン商品に別途の証明書/鑑定書が付属していないとすると、他の商品と比べて物足りなさを感じざるを得ません。
それは「30万円の腕時計を買ったのに保証書も何もついていなかった」とか「高級ブランドで買い物したのに、包装もなくレジ袋に入れて渡された」という感覚であると共に、
「本商品に関与したディーラーがいずれも『この直筆サインは本物である』と文書で宣言しないことへの漠然とした不安」であるように思います。
これが冒頭で述べた「違和感」の正体でした。
蛇足的なもの
広告によると本商品の額装に使われているのは「アクリル」だそうです。
掲示を想定しているのであれば、太陽光や蛍光灯による変退色の進行を遅らせられるよう、ただのアクリルではなく「UVカット」機能付であって欲しいと思いました(UVカット率は、通常のアクリルが90%、U Vカット機能付アクリルが98%と言われています)。